MaaSのムーブメントは一人のフィンランド人、後にMaaSの父と呼ばれることになるサンポ・ヒエタネンのアイディアから始まりました。
2006年
ロンドンからヘルシンキへ向かう飛行機の中で、そのアイディアは誕生しました。交通課題といえば交通インフラや運行効率ばかりに注目が集まっていた当時、交通をサービスとして捉え、それを利用する人々の生活をいかにシンプルにするかという着想がMaaSの原点でした。
その後数年で、このアイデアは会社へと形を変え、モビリティ業界に革命を起こし、フィンランドのモビリティ政策をも動かし、私たちが今日「MaaS(Mobility as a Service)」と呼ぶ概念が産声をあげたのです。
2009年
フィンランド運輸通信省は「インテリジェント交通戦略(ITS)」を発表しました。これは、新たなインテリジェント交通システムの導入により、安全な移動を確保し、交通と交通システムが環境、社会、経済の面で持続可能なものにすることを目的としていました。
2010年
フィンランドは、鉄道、海運、道路、航空、自動車の各社を、フィンランド運輸インフラ庁とフィンランド運輸安全庁という2つの新組織に統合しました。フィンランドは世界で初めて、これまで別々だった組織を機能的に統合したのです。
2011年
シトラ基金 (フィンランド革新基金) は、運輸通信省など政府機関と協力して、「交通革命」と題する論文を発表しました。この論文は、すべての交通の中心に生活者を位置づけ、モビリティと物流をサービスとして捉え、開発・活用すべきであると提唱したのです。
2012年
当時の運輸通信大臣メルヤ・キュッロネン氏と、他の7人の大臣は、議会にフィンランドの将来の交通政策を提案し、その中で政府自身が「オープンで革新的な文化創造のロールモデル」と定義しました。
2013年
運輸通信省の当時局長であったミンナ・キヴィマキ氏が「MaaS」という名称とその概念を世界に向けて正式に発表しました。
2014年
当時ITSフィンランドのCEOであったサンポ・ヒエタネンは、自分のアイデアをより多くの人に伝えるため、ITS会長のカッリ・サルミネンからの賛同も得て、世界初のMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)事業者立ち上げイベント」と題した啓蒙のイベントをフィンランド科学センター・ヘウレカで開催しました。250人以上の人がヒエタネンの講演に耳を傾け、この革新的なモビリティソリューションは大きな反響を呼びました。そしてまもなく、イベントに出席していた中の24の組織がそれぞれ5,000ユーロずつ支援するという申し出をきっかけに、MaaSビジネスが本格稼働となったのです。
ヒエタネンはMaaSを一人で始めたわけではありませんが、彼が後に立ち上げることになった会社とフィンランド政府は、このアイデアを理論から実践に移したという点でエポック・メイキングな存在となりました。ヘルシンキは既存の交通インフラを備えた完璧なテストプラットフォームを提供し、フィンランドが、欧州で急成長するIT事業に積極的だったことから、民間セクターから政治家まで幅広いステークホルダーがこのコンセプトと活動を熱心に後押ししました。
2015年
ヘウレカで開催されたイベントで24の組織が約束した資金は、コンサルティング会社Eera(現在のKorkia)の事業計画作成に充てられ、 Maas Globalはその年の5月に正式に設立しました。(設立当初の社名はMaaS Finland) また、欧州を筆頭にMaaSを世界に広めるという意図も込めて「MaaS Alliance(マース・アライアンス)」という官民連合の組織が結成され、ヒエタネンもその創設メンバーの一人となりました。
2016年
MaaS Finland社は急速に成長していき、ついにスマートフォンでMaaSを提供するアプリが完成。「Whim(ウィム、気の向くまま)」と命名されました。夏には、MaaS FinlandはMaaS Globalに社名変更。また、モビリティと社会に関するフォーラム(ブリュッセル)でMaaSアプリWhimが一般に公開されました。程なくしてWhimのパイロット版が発表され、10月には商用利用を開始、「スマートシティ行動賞」や「北欧スマートシティ賞」など、数々の賞を受賞しました。
2017年
新たな投資ラウンドにより1,420万ユーロの資金調達に成功し、9月にはアントワープでWhimのパイロットプログラムが開始されました。同時期、フィンランド政府は「交通サービスに関する法律」を制定し、モビリティと輸送に関するすべての法令を一つの傘の下に集約することで、全く新しいタイプのモビリティへのアプローチが可能になりました。この法律の背景には、気候変動への懸念とフィンランドにおける交通業界のデジタル化・規制緩和という目的がありました。この法律により、これまで公共交通との競争が不可能だった民間企業にとって、交通業界における移動サービスの自由競争と協働が解禁されました。
2018年
最初のWhim乗車から1年足らずで、アプリでの乗車回数が100万回を超え、3ヶ月後には200万回に達しました。4月には、ヘルシンキ市内のシティバイクがアプリに追加され、初めてマイクロモビリティがWhimユーザーに提供されました。英国バーミンガムでWhimがローンチされると、秋にはアントワープでもサービスが開始されました。8月までにMaaS Globalは合計2,950万ユーロを調達しました。
2019年
新年とともに、MaaS GlobalがWhimでの300万回の乗車という大きな節目迎えました。ウィーンへのサービス領域拡大を経て、10月には同社は累計5,370万ユーロを調達しました。また、欧州の交通サービスとは規模も文化も全く異なる日本市場への進出もこの時始まりました。
2019年にMaaS Global社の完全子会社としてMaaS Global Japan株式会社が日本に設立されました。三井不動産の大きなサポートを受け、柏の葉スマートシティ(千葉県)や、東京では日本橋、大手町、豊洲などでカーシェア、シェアバイク、タクシーなどのモビリティサービスを展開していましたが、コロナ禍に加え、ロシアのウクライナ侵攻が本格化した事でフィンランド本社の資金調達力が鈍化、これまで精力的にサービスを展開してきた日本をはじめとする欧州以外の市場への、継続的且つ安定的なサービス提供が困難という判断に至り、2023年6月、日本におけるWhimのサービスの一時休止が決定しました。
日本の交通のDXとともにMaaS推進の機運を止めてはならないという考えから、2023年7月、MaaS Global Japan株式会社はMaaS Global社から独立し、完全な日本法人となり、グローバルMaaSアプリの再稼働に向けて鋭意取り組んでおります。
MaaS Global Japan社は、世界で唯一ローミング機能を搭載した「グローバルMaaSアプリ『Whim』」の日本向けの開発ならびに運営を専任で行うMaaSオペレータです。
新卒で総合広告会社に入社。営業職として国内外の企業の広告戦略からブランディング、新商品開発などに携わる。その後、米国音楽系テレビ局のマーケティング子会社、クリエイティブ代理店、ツーリズム・マーケティング会社、スポーツ・ホスピタリティ会社、米国オンライン・フード・デリバリー大手など、海外発の多様なビジネスの日本市場導入や推進の経験が強みとなり、MaaS Global Japanの日本支社長に着任。2023年7月、MaaS Globalから日本支社を買収する形で独立。日本の交通課題解決と、グローバル化に向けて邁進している。東京出身、1969年生まれ。